2112No.67

KAMAちゃんの「廃棄物ひとくちコラム」

措置命令違反による逮捕

 

令和3年1月13日付け朝刊に以下の記事が掲載された件に関して、経過をお伝えするとともに、私が感じたことを書いてみたいと思います。

 

「山梨県北杜市に産業廃棄物を放置 会社代表が廃棄物処理法違反で逮捕」  

北杜市の会社が市内の2か所に産業廃棄物を放置し、県の撤去命令に従わなかったとして、警察はこの会社の代表を廃棄物処理法違反の疑いで逮捕しました。

逮捕されたのは、北杜市の肥料の製造などを行う会社「バイオ・テック・ジャパン」の佐田和彦代表です。警察によりますと、佐田代表は、別の業者※から受け取った産業廃棄物を北杜市須玉町に所有する2か所の土地に放置し、6年前に県が発出した撤去命令に従わなかったとして廃棄物処理法違反の疑いが持たれています。

※別の業者:島田市内にあった有限会社オカムラ 代表者岡村登(現在は廃業)

 

事件の経過・概要は、以下のとおりです。

()オカムラは、静岡県知事から許可を受けて、汚泥・動植物性残渣等を受入れ堆肥製造を業務としていましたが、製品の堆肥が思うように販売できなかったことから、平成   26年頃(それより数年前から継続していた模様)に佐田代表と共謀して、山梨県内の土地にそれを搬入し山積みしました。その量は、1万トンを超え、最大積上げ高は5m超に達していました。山梨県警は、「バイオ・テック・ジャパン」及び佐田代表を無許可営業で、オカムラと岡村代表を処理委託基準違反で平成27年2月10日に逮捕。その後有罪が確定しました。

平成28年3月に、山梨県は違法搬入された中間処理後物を全量撤去する措置命令を両社に対して発出し、履行期限を平成29年2月21日(2個所のうち別の1個所は平成   30年3月21日)としていました。しかし、両社ともに原状回復能力はなく、命令が履行されないまま放置されたことから、平成30年(月は不明)に山梨県警に告発しました。

一方で、山梨県は、廃棄物放置による生活環境保全上の支障を除去するために、平成   30年10月から1年間をかけて行政代執行を行いました。廃棄物とセメント系固化剤を攪拌・混錬し、硫化水素が発生しない性状にしたうえで現地に盛土・成形する工法(セメント安定化工法)を採用した封じ込め工事を6億4千万円掛けて実施しました。その後、昨年11月になって、固化した盛土にひび割れが生じ、悪臭や汚水の発生が見られることが報道されました。

措置命令違反事実が発生してから5年を迎えようとしていた令和4年1月12日に、この罪状で佐田代表が逮捕されました。ちなみに、現状オカムラは廃業していますし、岡村登代表は他界していますので、このような形になったものと考えます。

 

 次に、この事件についての情報収集をする中で、私が感じたことを書いてみたいと思います。

指導監督権限を有する山梨県の対応

  経過・概要1の逮捕に至る過程で、平成25年頃には違法搬入現場周辺の住民から悪臭苦情が寄せられ当局が調査をしています。このとき、佐田代表は「肥料の搬入」と説明したため、管理について注意するよう指示するにとどめたとのことです。発覚の端緒はこの時点でしたが、1万トン以上の物が持ち込まれ、数メートルの高さに積み重ねられるまで、追跡調査は行われなかったのでしょうか。一定の厚さ以上になり、何の作物も植栽されていなければ、通常はその時点で搬入を中止させるはずです。現場調査担当者の判断が甘かった若しくは追跡調査をして的確な指示をしなかった点については非難されても仕方ありません。

不法投棄罪を適用しなかった理由が不明

  経過・概要1の違反事実として、バイオテックジャパンの無許可営業とオカムラの処理委託基準違反が挙げられていますが、不法投棄罪を適用しなかった理由が判りません。過去の事例を見ても、不法投棄罪に対する罰則が重くなっていますので、同じ廃棄物処理法25条適用の犯罪ですが、不可解な部分です。推測するに、不正搬入の場所がバイオテックジャパンの管理地(所有地であったかは不明)であったことで適用を躊躇したのでしょうか。近年は、「みだりに捨ててはならない」の「みだり」性を広範に解釈する傾向があり、本コラム平成30年3月号でお伝えした岐阜県瑞浪市で発生した窯業用汚泥の自社敷地内への無許可埋立行為について不法投棄罪を適用したのが顕著な事例です。

措置命令発出や告発のタイミング

  少なくとも平成27年2月に最初の逮捕がされた時点では、廃棄物が放置され環境保全上の支障が生じていたと考えられます。であるならば、この時点までには、搬入物全量撤去の「措置命令」が発出されるべきであったと判断します。当然に、行政命令の発出でなくても、搬出の指導は行っていたと思いますが、撤去作業に着手しなかったことから逮捕後1年以上経過した時点で命令発出に至ったと考えられます。また、彼らによる原状回復が実現しない場合は、行政代執行による措置が必要となりますが、その前提として行為者に対する措置命令の発出は必要要件と考えられていますので、それを意識したものであったと推測されます。

  さらに、2箇所目の命令期限到来の時点で、ようやく告発をしています。これも、今の時点で言えば適切なタイミングとは言えなかったかも知れませんが、この点については止むを得ないと考えます。経過概要3に記載した行政代執行の実施時期が迫ってきていましたので、それを意識しての告発と言えるでしょう。

 

措置命令違反での逮捕時期

  違反事実が発生した日時は、平成29年2月22日及び平成30年3月22日です。廃棄物処理法第25条に該当する犯罪の公訴時効は「5年」ですので、1箇所目については、時効寸前の逮捕劇ということになります。また、山梨県がこの罪状で告発したのが平成30年でしたので、少なくとも3年以上経過しています。この間、警察・検察間の協議に時間を要したのでしょうか、それとも告発状を放置していたのでしょうか?

  私は、経過概要3後段に記載した行政代執行現場での環境支障再発が問題化し、再度税金投入しなければならない状況に至ったことが、背景の一部になっているのではないかと推測します。

 

この事件では、廃石膏ボード破砕物をオカムラに販売し(偽装有価?)肥料製造工程に混ぜ込んでいたとして措置命令対象となった島田市内の「Y建設」も関係していましたが、原状回復に向けた対応が行われたことから、同社は告発対象になりませんでした。

いずれにしても、オカムラやY建設に産業廃棄物の処理を委託していた静岡県内の排出事業者の皆様は、山梨県から法18条に基づく報告徴収がかかったり(数百社との情報)、原状回復資金の拠出要請がされたりで、大変に不愉快な思いをされています。法律の原則である排出事業者責任の確認・追及であると山梨県は説明していますが、その一方で、行政・警察の対応についても是非検証をお願いしたいものです。それは、既報の富士川支流雨畑川におけるニッケイ工業による汚泥流出事件への対応にも繋がるものと考えます。